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高松地方裁判所 昭和44年(行ウ)7号 判決 1979年6月21日

主文

一  原告の本件訴えのうち、被告が原告の昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度分、昭和四一年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの事業年度分及び昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度分の各法人税についてなした各更正及び重加算税賦課決定に対する原告の異議申立並びに被告が原告の昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度分の源泉所得税についてなした納税告知及び不納付加算税賦課決定に対する原告の異議申立につき、被告が原告に対し昭和四四年四月二三日付でした各異議決定の取消を求める部分は、これを却下する。

二  原告の本件訴えのうち、被告が原告に対し昭和四三年一二月二五日付でした原告の昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度分の法人税についての更正及び重加算税賦課決定のうちの、昭和四四年四月二三日付異議決定及び同年八月四日付審査裁決により一部取り消された前のものの取消を求める部分は、これを却下する。

三  原告の本件訴えのうち、被告が原告に対し昭和四三年一二月二五日付でした原告の昭和四一年五月一日から昭和四二年四月二〇日までの事業年度分の法人税についての更正及び重加算税賦課決定のうちの、昭和四四年四月二三日付異議決定により一部取り消された前のものの取消を求める部分は、これを却下する。

四  原告の本件訴えのうち、被告が原告に対し昭和四三年一二月二五日付でした原告の昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度分の法人税についての更正及び重加算税賦課決定の取消を求める部分は、これを却下する。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和四三年一二月二五日付でした原告の昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度分(以下、「昭和四〇年分」という。)、昭和四一年五月一日から昭和四二年四月二〇日までの事業年度分(以下、「昭和四一年分」という。)、昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度分(以下、「昭和四二年分」という。)の各法人税についての各更正及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  前項の各更正及び重加算税賦課決定に対する原告の異議申立につき、被告が原告に対し昭和四四年四月二三日付でした各異議決定を取り消す。

3  被告が原告に対し昭和四四年四月三〇日付でした原告の昭和四二年分の法人税についての再更正及び重加算税賦課決定を取り消す。

4  被告が原告に対し昭和四三年一二月二五日付でした原告の昭和四二年分の源泉所得税についての納税告知及び不納付加算税賦課決定を取り消す。

5  前項の納税告知及び不納付加算税賦課決定に対する原告の異議申立につき、被告が原告に対し昭和四四年四月二三日付でした異議決定を取り消す。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求の趣旨2項及び5項の各取消を求める訴えを却下する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、パン類の製造、販売を業とする会社であるが、昭和四〇年分ないし昭和四二年分の法人税について、別表一の各「確定申告」欄(1、7、13欄)記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、右各年分につき同表各「更正」欄(2・8・14欄)記載のとおり更正及び重加算税賦課決定をなし、かつ、昭和四二年分の源泉所得税について同表「納税告知」欄(20欄)記載のとおり納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をした。

原告は、被告の右各処分を不服として、被告に対し同表各「異議申立」欄(3、9、15、21欄)記載のとおり異議申立をしたところ、被告は、同表各「異議決定」欄(4、10、16、22欄)記載のとおり、それぞれ原処分の一部取消ないしは棄却の各決定をなし、ついで、昭和四二年分の法人税について同表「再更正」欄(17欄)記載のとおり再更正処分をなした。

原告は、被告の右各決定を不服として、訴外高松国税局長に対し同表各「審査請求」欄(5、11、18、23欄)記載のとおり審査請求をしたところ、同局長は、同表各「審査裁決」欄(6、12、19、24欄)記載のとおり一部取消ないしは棄却の各裁決をなした。

2  しかし、原告の昭和四〇年分ないし昭和四二年分(以下、「本件係争事業年度」という。)の所得金額は、別表一の各「異議申立」欄(3、9、15欄)記載のとおり、昭和四〇年分において五八万五四〇〇円、昭和四一年分において七〇万五〇〇〇円、昭和四二年分において一〇一万五〇〇〇円であり、また、昭和四二年分の源泉所得税の課税対象となるべき給与所得は存在しない。

従つて、被告のなした前記1の各更正ないし再更正及びこれらに伴う各賦課決定処分(以下、これらをあわせて「本件各処分」という。)並びに各異議決定(以下、「本件各異議決定」という。)は、いずれも原告の所得金額を過大に認定し、存在しない給与所得を存在すると誤つて認定したものであつて違法である。

よつて、原告は、被告に対し、本件処分及び本件各異議決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実ないし主張は争う。

三  被告の本案前の抗弁

本件各異議決定は、審査請求の対象とはなり得ない(昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法七九条五項、七六条五項一号)から、本件各異議決定自体についての取消の訴を提起するには、異議決定があつたことを原告が知つた日から三ヶ月以内にこれをしなければならない(行政事件訴訟法一四条一項)。

ところで、本件各異議決定が昭和四四年四月二三日になされたことは別表一の各「異議決定」欄(4、10、16、22欄)記載のとおりであり、原告はその頃該決定の通知書を被告から受け取つてこれを了知している。

しかるに、原告が本訴を提起したのは昭和四四年一一月一七日であつて、右の本件各異議決定を了知した日から三ヶ月以上を経過した後であるから、本訴のうち、本件各異議決定の取消を求める部分は、出訴期間を徒過した不適法な訴えとして却下さるべきである。

四  本案前の抗弁に対する原告の認否

本件各異議決定が昭和四四年四月二三日になされた事実は認める。

五  被告の主張

1  課税経緯

被告は、原告の納税申告の適否を調査していたところ、高知相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の普通預金(以下、「本件預金」という。)に原告のパン売上代金が小切手で多数入金されている事実を発見した。そして、本件預金における現金の入金状況、ことに入金日の間隔、一度の入金額等をも勘案して、被告は、本件預金の入金は原告のパン売上代金が入金されているものと認定した。ところが、右のパンの売上代金については、原告の法定帳簿には全く記載されておらず、原告は本件預金を利用して売上代金の一部の隠べいを図つているものと認められた。そこで、被告は、昭和四三年一二月二五日付で、原告の昭和四〇年分以降の各事業年度分について青色申告法人としての承認を法人税法一二七条の規定にもとづいて取消し、この取消処分は、原告からの不服申立もなく確定した。

2  課税根拠

(一) 昭和四〇年分について

原告が確定申告段階において申告した損益計算は、別表二の一の「原告金額」欄記載のとおりであり、被告が主張する所得金額の基礎となる損益計算は、同表の「被告金額」欄記載のとおりである。

右損益計算において、原・被告間で差額がある科目について、被告の算定根拠を明らかにすると次のとおりである。

(1) 番号1「売上金額」の差額三四二万九五七五円について

本件預金に、この事業年度中に合計三四三万四二四〇円の入金がなされている。このうち昭和四〇年八月一八日入金の二一六〇円と昭和四一年二月一四日入金の二五〇五万円(計四六六五円)は、本件預金に対する利息と認められる。そこで、本件預金の右入金額のうち、利息による入金を控除した三四二万九五七五円を原告の簿外売上と認定して、原告の申告額に加算した。

(2) 番号4「利息」の差額四六六五円について

前項に述べた利息であり、原告の所得に帰属するので、加算した。

(3) 番号8「原材料」の差額二〇万円について

原告は、昭和四〇年一二月三〇日に原材料の粉ミルクを代金二〇万円で購入しているが、原告の原材料の申告額のなかには右の購入費が計上されていないので、同額を加算して、損失として控除することを認める。

そうすると、原告の本係争年度中の所得金額は、別表二の一の「被告金額」欄番号28のとおり三一五万二二八〇円となる。したがつて、右金額の範囲内でなされた、本係争年度の所得金額を二二四万八八三一円とする課税処分及びこれに伴う重加算税の賦課処分は適法である。

(二) 昭和四一年分について

原告が確定申告段階において申告した損益計算は別表二の二の「原告金額」欄記載のとおりであり、被告が主張する所得金額の基礎となる損益計算は同表の「被告金額」欄記載のとおりである。

右損益計算において、原・被告間で差額がある科目について、被告の算定根拠を明らかにすると、次のとおりである。

(1) 番号1「売上金額」の差額二八二万二六二一円について

本件預金に、この事業年度中に合計二七七万一二九三円の入金がなされている。このうち昭和四一年八月一三日入金の二四三三円と昭和四二年二月一三日入金の一二三九円(計三六七二円)は、本件預金に対する利息と認められる。そこで、本件預金の右入金額のうち、利息による入金を控除した二七六万七六二一円を原告の簿外売上と認定した。

また、本係争年度中に、原告の簿外資産に左記のような資金源不明の合計七五万五〇〇〇円の資産が増加している。

(イ) 電気釜     三五万円

(ロ) 単車一台 五万五〇〇〇円

(ハ) 東邦相互銀行新居浜支店における真鍋禎吉名義の定期積金預金への入金のうち 三五万円

他方、本件預金の本係争年度中における出金先を調査してみると、七〇万円が使途不明である。そこで、右使途不明分の七〇万円が全部前記の資金源不明の資産合計七五万五〇〇〇円の取得に用いられたと仮定しても、なおその差額五万五〇〇〇円の資産については資金源が不明である。したがつて、この差額五万五〇〇〇円は結局、本件預金にも入金されなかつた原告の簿外売上と認められる。

よつて、本件預金に入金された前記簿外売上金二七六万七六二一円とそれに入金されなかつた右簿外売上金五万五〇〇〇円との合計二八二万二六二一円を本係争年度における原告の簿外売上と認定して、原告の申告額に加算した。

(2) 番号4「利息」の差額三六七二円について

前項に述べた利息であり、原告の所得に帰属するので、加算した。

(3) 番号22「租税公課」の差額一五万七三二〇円について

原告の昭和四〇年分の所得金額二二四万八八三一円に対する事業税一五万七三二〇円を損失として控除することを認める。

そうすると、原告の本係争年度中の所得金額は、別表二の二「被告金額」欄の番号28のとおり二五五万四八九一円となる。したがつて、右金額の範囲内でなされた、本係争年度の所得金額を二四六万九五七一円とする課税処分及びこれに伴う重加算税の賦課処分は適法である。

(三) 昭和四二年分について

原告が確定申告段階において申告した損益計算は別表二の三の「原告金額」欄記載のとおりであり、被告が主張する所得金額の基礎となる損益計算は同表の「被告金額」欄記載のとおりである。

右損益計算において、原・被告間で差額がある科目について、被告の算定根拠を明らかにすると、次のとおりである。

(1) 番号1「売上金額」の差額三三三万一二一三円について

本件預金に、この事業年度中に合計三五三万六〇九六円の入金がなされている。このうち昭和四二年八月一四日入金の二二四二円と昭和四三年二月一二日入金の一八七九円(計四一二一円)は、本件預金に対する利息と認められる。また、昭和四二年一二月二日の入金二〇万〇七六二円は、高知相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の通知預金が解約されたものが入金されたものと認められる。そこで、本件預金の右入金額のうち、利息及び通知預金の解約分を控除した三三三万一二一三円を原告の簿外売上と認定して、原告の申告額に加算した。

(2) 番号3「期末たな卸」の差額一五万円について

原告の期末たな卸の申告額のなかには、脱脂粉乳一五袋分一五万円が含まれていなかつたので、加算した。

(3) 番号4「利息」の差額六一万〇五〇六円について

原告は、本件預金に対する利息として前記のとおり四一二一円を得ている。

また、原告は、東邦相互銀行における真鍋禎吉名義の定期積金預金に、昭和三九年四月二三日から毎月二〇万円づつ四〇回の預金をしているが、この定期積金はほとんど本件預金から支出されており、原告の資産に帰属するものと認められる。この定期積金預金が昭和四二年八月二三日に満期解約され、原告は元金八〇〇万円とその利息六〇万円を得ている。

さらに、原告は、右満期解約になつた八〇〇万円の元金のうち二五〇万円を昭和四二年八月二五日に新居浜市農業協同組合に定期預金として預け入れているが、この定期預金も資金源からみて原告の資産に帰属するものと認められるところ、この定期預金のうち、小野大二郎名義の額面五〇万円の定期預金が昭和四三年一月一〇日に中途解約され、原告は利息として六三八五円を得ている。

よつて、右三口の利息の合計金六一万〇五〇六円は原告の所得に帰属するので、加算した。

(4) 番号8「原材料」の差額二〇万円について

原告は、昭和四二年八月二五日に原材料の粉ミルクを代金二〇万円で購入しているが、原告の原材料の申告額のなかには右の購入費が計上されていないので、同額を加算して、損失として控除することを認める。

(5) 番号22「租税公課」の差額一七万七二一〇円について

原告の昭和四一年分の所得金額二四六万九五七一円に対する事業税一七万七二一〇円を損失として控除することを認める。

(6) 番号24「利息割引料」の差額二二万八〇五八円について

原告は、簿外資産を購入する等の目的で、左記のとおり銀行等よりその資金を借入れ、本係争年度中に、右借入金の利息金合計二二万八〇五八円支払つているところ、原告の利息割引料の申告額のなかには右の利息支払分が計上されていないので、同額を加算して、損失として控除することを認める。

借入先

借入名義人

借入金額

借入期間

日歩

利息金額

東邦相互銀行新居浜支店

真鍋禎吉

一、四〇〇、〇〇〇

自昭和四二年五月一八日

至昭和四二年八月二三日

一銭八厘

二四、六九六

四、二〇〇、〇〇〇

自昭和四二年七月三日

至昭和四二年八月二三日

一銭八厘

一七、二六二

工藤圓治

二、五〇〇、〇〇〇

自昭和四二年七月三日

至昭和四二年八月二三日

二銭二厘

二八、六〇〇

新居浜市農業協同組合

二、五〇〇、〇〇〇

自昭和四二年八月二三日

至昭和四三年四月三〇日

二銭五厘

一五七、五〇〇

合計

二二八、〇五八

(註) 真鍋禎吉の四二〇万円の借入金については、昭和四二年七月五日に内入金として二五〇万円を返済している。

そうすると、原告の本係争年度中の所得金額は、別表二の三の「被告金額」欄の番号28のとおり三四七万九九二一円となる。したがつて、右金額の範囲内でなされた本係争年度の所得金額を二九〇万〇七六六円とする課税処分及びこれに伴なう重加算税の賦課処分は適法である。

(四) 昭和四二年分源泉所得税について

原告は前述のとおり、原告の簿外預金と認められる東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の定期積金預金を昭和四二年八月二三日に満期解約し、右銀行から同日元金八〇〇万円及び利息六〇万円の合計八六〇万円を受け取つている。そして、そのうち五六〇万円を同銀行からの借入金(真鍋禎吉名義一四〇万円、同人名義四二〇万円のうち残金一七〇万円、工藤圓治名義二五〇万円)の返済に充当するとともに、うち二五〇万円を新居浜市農業協同組合の定期預金に預け入れているが、残額五〇万円はその使途が不明である。そこで、右五〇万円を原告の代表者工藤圓治が取得したものであると認めて、同人に対する賞与支給として原告の源泉所得税の課税の対象とした。

したがつて、本件納税告知処分及びこれに伴う不納付加算税賦課処分は適法である。

3  推計計算

被告は、原告のパン売上金額の推計計算を行い、本件預金が原告の簿外売上金を預金したものであることの正当性を検討したが、その結果は次のとおりである。

(一) 原材料の仕入数量

被告は原告の申立に基づき主要取引先である近藤物産株式会社に対し原材料の仕入数量を調査したが、原告との取引が主として現金取引であつたこと等の理由により正確な仕入数量を把握し得なかつたので、やむなく原告の仕入帳に基づき調査したところ、パンの主原料である小麦粉及びイーストの仕入数量は、次表のとおりであつた。

事業年度

小麦粉(袋)

イースト(本)

昭和四〇年分

八六〇

一、三九二

昭和四一年分

一、三〇九

一、五五三

昭和四二年分

一、三六〇

一、七〇五

(註) イースト一本は一ポンド入りである。

ところで、パン、洋菓子の製造に必要なイーストの使用量は、通常小麦粉一袋につき一本が必要だとされており、このことは、後記(二)掲記の同業者の使用量からも裏づけられる。しかるに原告の場合、右表のとおり、イーストに比べて小麦粉の使用量が極めて少いのであるが、原告が他の同業者に比べてイーストを特に多く使用する等の特段の事由も見当らなかつたので、右イーストの使用量を基礎に原告の売上金額の推計計算をした。

(二) 同業者におけるイースト一本当たりの売上金額

被告において、原告と営業内容がほぼ類似する同業法人三社(有限会社三浦製パン、有限会社西村製パン所、田中製パン株式会社)について、本件係争事業年度時の小麦粉及びイーストの使用量並びにパンの売上金額を調査したところ、次表の<1><2><3>欄のとおりであり、イースト一本当たりの売上金額は<4>欄のとおりであつた。

事業年度

<1>小麦粉使用量

<2>イースト使用量

<3>パンの売上金額

<4>イースト一本当売上金額

(<3>/<2>)

昭和四〇年分

七、六七四

七、一一八

四六、一四五、〇五三

六、四八二

昭和四一年分

七、四〇六

七、一〇二

四八、五六四、二四六

六、八三八

昭和四二年分

七、五五九

七、三二七

五〇、一〇一、二三六

六、八三七

(註) 右数額はいずれも同業者三社分を合算(合計平均)したものである。

(三) 原告のイースト使用量及びパン売上金額の推計

原告の本件係争事業年度におけるイーストの使用量は、前記(一)の仕入量をもとに当該年度の期首、期末の棚卸高を加算、減算すると次表<4>欄のとおりである。

そこで、このイーストの使用量に前記(二)掲記の表<4>欄の同業法人三社のイースト一本当たりの平均売上金額を乗じて原告のパン売上金額を算出すると次表<6>欄のとおりである。

事業年度

<1>仕入数量

<2>期首棚卸

<3>期末棚卸

<4>使用量

<5>一本当売上金額

<6>推計売上金額

昭和四〇年分

一、三九二

一、三九二

六、四八二

九、〇二二、九四四

昭和四一年分

一、五五三

二〇

一、五二三

六、八三八

一〇、四八二、六五四

昭和四二年分

一、七〇五

二〇

一〇

一、七一五

六、八三七

一一、七二五、四五五

以上のとおり、パンの原材料であるイーストの使用量を基礎として原告の売上金額を推計すると、昭和四〇年分は金九〇二万二九四四円、昭和四一年分は金一〇四八万二六五四円、昭和四二年分は金一一七二万五四五五円となり、右金額は別表二の一ないし三の「原告金額」欄掲記の原告申告の売上金額をかなり上廻る反面同表「被告金額」欄掲記の被告主張の売上金額にいずれもほぼ見合うことになる。したがつて、被告において、本件預金が、原告の預金であり、主としてパンの簿外売上金が入金されているものと判断し、本件課税処分に及んだことは正当である。

六  被告の主張に対する原告の認否ないし反論

1  課税経緯ないし課税根拠について

(一) 原告が確定申告段階において本件係争事業年度の所得金額として申告した損益計算が別表二の一ないし三の「原告金額」欄記載のとおりであり、被告が原告の右年度の所得金額として主張する損益計算等が同表の「被告金額」欄記載のとおりであることは認める。

(二) 原告の本件係争事業年度における所得金額は右申告のとおりであつて、本件預金を原告の簿外売上金の入金と認定してなした被告の本件課税処分は、次に述べる理由からして失当である。

(1) 本件課税調査の発端

原告会社代表者工藤圓治(以下、「工藤」ともいう。)は、個人所有にかかる新居浜市若水町一丁目甲五一七番地の一の宅地を訴外協立病院に駐車場として賃貸し、その賃料を同病院から小切手で受け取り、高知相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉(工藤の妻の父)名義の本件預金に入金していたところ、これを発見した新居浜税務署員が、右入金を原告のパン類売上代金と誤解し、調査を始めたのが、本件課税の発端である。

(2) 本件預金の入金内訳

原告は代表者工藤が経営するいわゆる個人会社であるが、その法人勘定と工藤の家計上の個人勘定は別にしており、原告法人の収支は、香川相互銀行新居浜支店における普通預金で、工藤個人の収支は、高知相互銀行新居浜支店の普通預金(真鍋禎吉名義の本件預金を含む。)で各別に行つている。

しかし、別建の右双方の勘定間において、時に便宜的振替が行われていることは否定できず、たとえば、法人の売上金を個人口座に預け入れ、後に計数的に符合する金額を法人口座に入れて修正するとか、法人の支出を一旦個人口座で賄い、後に振替修正するとか、あるいは双方の資金残高の過不足に応じて融通し合うとか、種々の方法で、しかも一括し、または分割して振替がなされており、これなくして競争のはげしい中小企業の法人経営は成り立たない。しかるに被告は、本件預金はその移動形態から見て全部法人営業上の売上金であり、原告の簿外所得であるというのであるが、中小企業における経営者の資金操作は、それほど単純なものではない。

結局、本件預金は、種々の形と額をもつて流入しているが、工藤及びその家族の個人資産であり、その預金構成の内訳は次のとおりである。

(イ) 昭和四〇年分に相当する期間

(A) 本件係争年度以前の個人旧蓄を取り崩した分で本件預金に入金されたもの 二二〇万円

(B) 原告会社の役員として、工藤及びその妻が原告から受け取つた給与、工藤個人所有の土地及び地上建物を原告に貸与した賃料が本件預金に入金されたもの 七二万六〇〇〇円

(ロ) 昭和四一年分に相当する期間

(A) 前同旧蓄取崩分 一九〇万円

(B) 前同工藤夫妻個人収入分 八七万円

(ハ) 昭和四二年分に相当する期間

(A) 前同旧蓄取崩分 二一六万円

(B) 前同工藤夫妻個人収入分 一〇三万八〇〇〇円

以上合計 八八九万四〇〇〇円

(3) 原告のパン売上げの実情と利益率

原告は、前述のとおり個人会社で、営業所は地方中都市の商業的にみて二流地にあり、店舗が七坪、加工及び製造所が七坪の小面積で、家族以外の雇人は三名に満たない零細企業である。

また、パン類製品の販売価格は、販路及び需給の規模並びに同業者の協定等により自ら一定限度に抑えられ、いかに原告会社代表者工藤がパン類製造の技術に優れ、他の同業者に比し割高の利益を挙げ得たとしてもそこには限度がある。

しかも、パン類販売業における全国平均同業者の売上高に対する総利益率は、二四・五%であるのに、被告は原告がこれをはるかに上廻る利益を挙げたとする前記損益計算をもつて本件課税に及んでいる。

(4) 所得額算定方法の不当性

原告のようなパン、洋菓子類製造販売業者の製品量は、原材料である小麦粉、バター及び砂糖の消費量によつて決まるものであるが、その仕入量は明確であるから、かかる原材料の仕入量を基礎に所得額を算定すべきである。しかるに、被告は、個人所得の含まれた本件預金高をすべて原告法人の簿外売上と推定し、これを基礎に原告の所得額を算定している。

また、原告の営業には、簿外経費として特殊ルートによる原料の仕入れ、あるいは交際費その他の雑費用を要するところ、仮に被告主張の簿外売上があつたとしても、これに見合う簿外経費が控除されなければならない。しかるに、被告主張の前記損益計算においてその控除がなされていない。

(三) 昭和四二年分源泉所得税について

原告が東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の定期積金預金を昭和四二年八月二三日に満期解約し、元利金合計八六〇万円を受け取つたこと、そのうち五六〇万円を同銀行からの借入金返済に充当し、二五〇万円を新居浜市農業協同組合に定期預金した事実は認めるが、その余の被告主張事実は争う。

右東邦相互銀行新居浜支店の預金には、本件預金について述べたと同様、原告代表者個人の所得が含まれており、また、右元利金八六〇万円のうちの残金五〇万円は自宅に保留したもので使途不明金ではない。したがつて、これを原告の工藤に対する賞与支給と認定してなした本件課税処分は違法である。

2  推計計算について

(一) 原告の売上推計について、被告は、本件課税当時においては、確たる資料を持つておらず、一時点の断片的な調査と原告の銀行預金の状況のみを根拠として課税したのであるが、本訴が提起されて後、理由の跡附けをしようとして調査を行い資料を蒐集したもので公正さを欠く。

(二) ところで、我国ではパンを主食としないから、諸外国に比べ食パンの製造量は多くなく、食パン以外の特殊パンの量が比較的多いのが特徴であるが、特殊パン(菓子パン、スイートロール、蒸しパン)の製法としては、原料にバター、チーズ、卵、食塩、砂糖などを混入するため発酵率が悪く、イーストを多量に使用する結果となるため小麦粉に対する重量比は、少ないものでも三ないし三・五%、多いものでは八%にも達するものがある。したがつて、業界においては、食パンとそれ以外の特殊パンを併せた全部のパン製造において所要イーストの量は平均すると小麦粉に対する重量比で二・五%ないし三%位であるとするのが常識である。

(三) この点、被告は、小麦粉一袋に対しイースト一本の割合が標準であるというが、小麦粉一袋は本件係争年度当時の規格で二二キログラム、イースト一本は四四〇グラムであるから、被告主張の小麦粉に対するイーストの割合は二%ということになる。学校、会社等の給食用あるいはスーパーマーケツト販売用等の食パンを大量に生産し卸売している業者では、大規模の設備と人員を備えているためパンの熟成周期を間断なく繰り返えすことができ、その結果、生産量が多いのにイーストの使用量は比較的に少ない。そして、イーストの使用量が小麦粉の重量比の二%あるいはそれを少し上廻る程度のパンの製法をとつているのは、右の如き食パン業者に限られるところ、被告は、かかる業者の資料を利己的に抽出しているものであり、不当である。

(四) 原告は、いわゆるウインドベーカリーであり、生産規模も極めて小さいから、パン熟成周期の回転率は悪く、イーストをより多く使用しなければ予想販売量に達するパンを生産することはできない。原告方では全製品の約八〇%が食パン、二〇%がそれ以外の特殊パンであるが、小麦粉に対する重量比は食パンの場合イースト二・三ないし二・五%、その他の特殊パンの場合イースト三・五ないし八%(平均四%位)を使用量としている。

したがつて、被告が「原告会社は特段の事由も見当らないのにイーストの量に比し小麦粉の使用量が少ないのはおかしい」旨主張するのは誤りである。

(五) 被告が抽出した三業者は、ともに原告より大規模の企業形態を有するものであり、そのうち田中製パンは、卸売が小売の半額に達するほどの卸、小売業者である点において、西村製パン所及び三浦製パンは、学校給食用パンの製造業者である点において、それぞれ原告と業態を異にする。

(六) 原告の本件係争年度の小麦粉及びイースト仕入量は左記のとおりであり、被告の主張(四の3の(一))は誤りである。

事業年度

小麦粉(袋)

イースト(本)

昭和四〇年分

九三二

一、二九七

昭和四一年分

一、二七五

一、五八四

昭和四二年分

一、三三七

一、六二〇

(七) イーストは、腐敗し易いものであるからロスもあり、その他原告方では、時に取引先の中華料理店や婦人団体等の注文に応じ、イーストをばら売りすることもあり、最近では家庭製パンもかなり普及し、家庭の主婦からの注文も増加して来た。したがつて仕入イースト全部が原告のパン製造用に使はれている訳ではない。

以上の次第であるから、イーストの仕入量を基礎に原告の売上高を推計計算した被告の主張は合理性を欠き不当である。

七  原告の反論に対する被告の再反論

1  本件課税調査の発端ないし経緯について

(一) 新居浜税務署係官が、原告の法人税調査の一環として、原告会社役員立会のもとに現金の現実の保有高と帳簿上の残高について照合を行つたところ、両者に食い違いがあり、しかも、原告は現金売上をその都度店頭においてレジスターに記録していたが、前日までの記録については大学ノートに転記した後直ちにレジペーパーを廃棄していたばかりか、右転記された大学ノートには改竄の跡(たとえば五〇〇円を五〇円に)が多数見受けられ、さらに、現存していた当日分のレジペーパーについても記録されていないが金入れが開閉されたことを示す空間が多数あつた。

これらの事実から、係官は原告の現金売上についての記帳の正確性について疑問を抱き、さらに調査の必要性を認めた。

(二) その頃、原告会社代表者工藤が新居浜市若水町一丁目甲五一七番地の一の同人所有の宅地を昭和四三年四月頃に訴外協立病院に賃貸し、その地代を得ているとの探聞があつたので、同病院について右地代の支払状況を調査したところ、小切手で支払われ、高知相互銀行新居浜支店においてその取立がなされていることが判明した。

そこで、右支店について右小切手の入金先を調査したところ、前記真鍋禎吉名義の本件預金に入金されている事実が明らかになつた(但し、右地代の入金は、昭和四三年五月一〇日以降であるから本件係争年度の課税処分とは関係がない。)

ところで、本件預金は入出金が多く、金額も相当多額であり一般個人のものとは到底認められないものであつたので、その入出金状況についてさらに調査したところ、有限会社橋本電機商会振出の小切手が入金されており、同会社に照会したところ右小切手は原告に対するカステラ代の支払である旨の回答があつた。

さらに、右以外にも小切手で多数入金されており、それらの小切手振出人に照会したところ、いづれも原告に対する支払である旨の回答があつた。

(三) そこで、係官は、原告会社代表者工藤に対してこれらの事実を示し、本件預金の帰属について釈明を求めたところ、同人は当初は誰のものか知らない旨申し立てていたが、係官において、小切手の入金状況等を説明するとともに、右預金の出金額の使途が明らかにされない場合には、法人税法上、代表者に対する利益処分の役員賞与として課税されることがある旨の説明をしたところ、同人はついに観念して、原告会社の売上を除外して右預金に入金していたこと、及び出金額は東邦相互銀行新居浜支店の定期積金預金(真鍋禎吉名義二口、横出幸吉名義三口)、その他製パン用機械器具、店舗改装代金等に各充当した事実を自供するとともに自発的にわび状を提出した。

(四) ところが、その後、同人は前言を翻し、本件預金の入金は、パチンコによる儲けであるとか、小豆相場による儲けであるとか主張を変え始めたが、係官の調査によりいづれもその事実がないことを明らかにされると、今度は旧蓄の取崩分あるいは個人所有の不動産収入を入金したものである旨主張し、本件預金は同人個人の預金である旨を申し立てるに至つた。

(五) しかしながら、係官は同人の右申立てに基づき、その事実を確認するため、新居浜市内の各金融機関等を調査したところ、その事実は認められなかつたばかりか、本件預金への小切手による売上の入金が多数発見され、また、機械器具等の購入についての同人の自供はすべて事実であることが判明し、当初の自供が真実であることが明らかになつた。

2  本件預金を原告の簿外売上と認定した根拠について

(一) 簿外売上金作出の可能性

原告は、新居浜市若水町の通称登道といわれる商店街(新居浜市内唯一の銀天街である)に位置し、周辺に飲食店街さらには住宅街を控え、パン製造小売業としては極めて有利な立地条件にあり、日々多数の現金売上があつたものと推測される。

しかも、原告会社の経営は代表者工藤とその妻の両名によつてなされている同族会社であつて、右両名らが原告会社の日々の現金管理及び課税基礎となる帳簿書類の記帳整理を行つていたものであるから、パン売上代金を除外し、簿外売上金を作出することは極めて容易な状況にあつた。

(二) 小切手入金明細

本件預金の入金のうち、現金に混入して入金した小切手の振出先等を調査したところ、振出人が行方不明とか、いわゆる廻し小切手で振出人が倒産したとか、銀行の小切手持出帳の記載が不明確等の理由で調査不能なものを除いた調査結果は別表三の一のとおりであつた。右調査結果によれば、振出人、取引内容からみて小切手による入金のすべてが原告の売上げと認められ、この事実と本件預金が架空名義を用いている事実とを合せ考えると本件預金は原告会社の売上除外金を操作するために特に設けられたものと認めるのが相当であり、この目的以外に本件預金の存在理由を見出すことはできない。

(三) 入金状況

本件預金の入金額は、月末の集金を入金したと考えられる月末ないし月初めのやや多額の入金及び一二月下旬の入金を除いては一〇万円内外の継続的な入金であつて、このような入金は日銭が入る商人以外はできないものであり、原告が売上を除外して本件預金に入金していたことが一目瞭然と判る。

加えて、本件係争事業年度の各月別入金状況は別表三の三のとおりとなり、この金額の程度、各月別の金額の変化(夏場が最も少く、クリスマスと正月を控えた一二月が最も多い。)からみて、本件預金の入金は原告会社の売上金を除外したものをもつてなされたものであると認めることができる。

(四) 出金状況

本件預金から出金した金員は、後記6に述べるとおり、原告会社の営業上不可欠の製パン用機械等簿外資産の代金に充当されているのであるが、右機械等の資産は公表帳簿に計上しておれば、減価償却費として営業上の経費に計上できるにもかかわらず簿外の資産とし、右減価償却費相当額だけに自ら不利益な会計処理を行つている。このことは原告はこの資産を公表帳簿に計上すれば本件預金の存在ないしは売上除外の事実が発覚することをおそれたからにほかならないのであつて、このことからしても本件預金の入金が売上金の一部除外によるものであることを裏付けることができる。

(五) 預金操作

本件預金は架空の真鍋禎吉名義を使用し、高知相互銀行新居浜支店の紅茶代振替三口と通知預金の解約受取金振替一口の入出金以外はすべて現金扱いであつて、右預金から派生した定期積金、定期預金もすべて架空の名義を使用し、しかも継続して同一銀行に預金することは殆んどなく預金銀行を転々と変える等、税務調査による預金の発見を著しく困難にするよう巧妙に操作している。

仮りに、本件預金が原告代表者ら個人の正当な所得からなるものであるならば、架名預金にする必要は何らなかつたのであり、しかも本人名義で預金し非課税制度(所得税法第一〇条昭和三八年法律六六号追加)を利用すれば、預金利息にかかる源泉所得税の納付を合法的に免れ得たにもかかわらず、あえて架名預金にし右源泉所得税を納付する等不合理、不自然な預金操作を行つている。このことは、本件預金が原告会社の売上除外金をもつてつくられたことを裏づけている。

3  原告主張の旧蓄取崩分について

(一) 原告会社代表者工藤は、昭和二六年頃個人で現在の営業を開始し、昭和二九年五月一日原告会社を設立し、同社の経営にあたつてきたが、同人と妻トシ子を除いた他の役員は形式上のものにすぎず、実質的には右工藤夫妻の同族会社であつた。

ところで、同人らの収入は、本件係争事業年度前は年間六〇万円以下にすぎず、昭和二六年頃からの貨幣価値の変動、経済の成長率を考慮すると同人らの収入をもつてしては莫大な貯蓄などでき得る筈はない。

(二) しかるに、同人らは、昭和三三年二月八日に工藤圓治名義をもつて新居浜市若水町一丁目甲五四〇番の四の宅地八二・六四平方メートルを購入し(時価は約一〇四万円であつたと推定される)、同地上に昭和三五年一〇月頃同人名義をもつて鉄筋コンクリート造三階建の店舗兼住宅(床面積は一九二・八九平方メートルであつて建築費は約三五〇万円であつたと推定される。)を新築した。

さらに、昭和三四年六月三〇日に工藤圓治名義をもつて新居浜市若水町一丁目甲五一七番地の一の宅地三三四・三八平方メートルを購入し(時価は約一〇〇万円であつたと推定される)、同地上に工藤トメ子名義をもつて居宅を新築し、建築代金として昭和四六年四月三〇日に金二〇〇万円、同年七月三一日に金三〇〇万円、同年一一月二六日に金二〇〇万円、同年一一月二九日に金二二六万円、合計九二六万円を支出している。

このように昭和三三年から昭和三五年にかけて不動産を取得するために合計約五五〇万円を支出し、また昭和四六年に居宅の新築に九二〇万円余を支出しているが、この大金は、本件で発覚したところの原告会社の売上の除外を長期間継続して行うことによつてのみなし得ることである。そうしてみると原告の主張する工藤らの旧蓄とは、原告会社の簿外資産にほかならないというべきである。

4  原告主張の個人収入分について

本件係争事業年度における原告会社代表者工藤とその家族の収入状況は次表のとおりであつて他には何らの収入もなかつた。

所得区分

昭四〇年度

昭四一年度

昭四二年度

工藤圓治

給与

不動産

三四〇、〇〇〇円

一六五、〇〇〇円

四八三、〇〇〇円

一八〇、〇〇〇円

五一六、〇〇〇円

三〇〇、〇〇〇円

工藤トメ子

給与

不動産

一六五、五〇〇円

〇円

二〇九、〇〇〇円

〇円

二二二、〇〇〇円

〇円

合計

六七〇、五〇〇円

八七二、〇〇〇円

一、〇三八、〇〇〇円

ところで、工藤の家族構成は、同人の外、妻と長男、長女の計四名であつて、当時、長男斌は大阪経済大学に在学し(昭和四〇年四月から同四五年三月まで)、長女みずえは新居浜西高等学校に在学(昭和四一年四月から同四四年三月まで)していたから、工藤一家の生計費は、右子供らの学資(長男に対する送金月三万円位)等を考慮するとかなりの額に達していたと推察され(総理府統計局の統計によると五万人以上の都市世帯の総平均で一人当りの生計費は月額で昭和四〇年は一万二一〇六円、昭和四一年は一万三四五二円、昭和四二年は一万四七九二円、昭和四三年は一万六四〇五円であつた。)、さらに、その頃相当額の簡易保険金を月掛していたから、右個人収入の残額を本件預金に入金できる余裕は全くなかつたといわざるを得ない。

5  売上高に対する総利益率について

原告が主張する総利益率二四・五%とは、パン製造卸売業の統計に基づくものであり、パン製造小売業を営む原告の課税算定に右利益率を用いることは不合理である。

ちなみに、パン製造小売業の総利益率の統計がないため、菓子製造小売業の統計から推計する以外ないが、これによると、原告と同規模のパン製造小売業の本件係争事業年度頃の総利益率は四二・八%であり、被告主張の所得金額の正当性が裏づけられる。

6  簿外経費の控除について

(一) 原告は、被告が主張する所得金額から、さらに簿外経費を控除すべき旨主張するが、本件預金の出金経過ないし使途は、次のとおり明らかであるから、仮に原告において、被告が本件課税処分において認定した経費を上廻る簿外の経費を支払つたとしても、本件預金がこれに充てられたと考える余地はない。

したがつて、本件係争事業年度において原告主張の簿外経費を要したとしても、本件預金以外に右経費と同額の現金売上があつたものと認めざるを得ないことになるから、結局、被告主張の所得金額には何ら影響はない。

(二) 本件預金の出金経過ないし使途

(1) 昭和四〇年分について

本件預金から総額三三五万九〇〇〇円が出金されているが、次のとおり簿外の資産が増加しているので右出金額はこれらの取得資金(総額三三五万四二〇〇円)に充てられたものと認められる。

(イ) 東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の定期積金預金二口に合計二四〇万円入金

(ロ) 冷凍陳列機の代金に七五万四二〇〇円

(ハ) 粉ミルクの代金に二〇万円

なお、差引四八〇〇円については使途不明であるが、原告会社代表者工藤が費消したものと認める。

(2) 昭和四一年分について

本件預金から総額二七五万円が出金されているが、次のとおり簿外の資産が増加しているので、右出金額はこれらの取得資金(総額二八〇万五〇〇〇円)に充てられたものと認められる。

(イ) 前同定期積金預金二口に合計二四〇万円入金

(ロ) 電気釜の代金に三五万円

(ハ) 単車一台の代金に五万五〇〇〇円

なお、差額分五万五〇〇〇円は、本件預金以外の簿外売上金により充てたものと認めたことは、前記のとおりである。

(3) 昭和四二年分について

本件預金から総額三二七万円が出金され、これ以外に<1>後記(二)の(2)の(イ)の真鍋禎吉名義の借入金一四〇万円を昭和四二年八月二三日に返済した際の戻利息七五六円と<2>後記(二)の(2)の(ロ)の真鍋禎吉名義の借入金四二〇万円のうちの二五〇万円を昭和四二年七月五日に返済した際の戻利息二万二〇五〇円と<3>後記(二)の(1)の小野大二郎名義の定期預金を昭和四三年一月一〇日に中途解約した際の受取利息六三八五円の合計二万九一九一円の利息の償還を受け、合計三二九万九一六四円(三二九万九一九一円の誤記と認める。)を受領しているが、次のとおり簿外の資産が増加しているので、右出金額はこれらの取得資金(総額三二九万五七四七円)に充てられたものと認められる。

(イ) 前同定期積金預金二口に合計六〇万円入金

(ロ) 東邦相互銀行新居浜支店の横田幸吉名義の定期積金預金三口に合計一二〇万円入金

(ハ) 高知相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の通知預金に二〇万円入金

(ニ) 百十四銀行新居浜支店の工藤圓治名義の定期積金預金に合計二〇万〇五〇〇円入金

(ホ) 混合機代金五〇万円のうち一二万六〇〇〇円

なお、残額三七万四〇〇〇円は後記(三)の(1)の(ロ)のとおりである。

(ヘ) 新居浜市徳常町甲六六八の三の土地外一筆の埋立整地代金一六万円

(ト) 建物付属設備の代金合計四〇万二〇七〇円

(チ) 電熱器等の代金八万七五〇〇円

(リ) 看板等の代金四万三五〇〇円

(ヌ) 粉ミルクの代金二〇万円

(ル) 紙袋の代金二万三五七七円

(ヲ) 東邦相互銀行新居浜支店から昭和四二年七月三日に借入した二五〇万円に対する借入金利息二万八六〇〇円

(ワ) 新居浜市農業協同組合から昭和四二年八月二三日に借入した二五〇万円に対する借入金利息二万三七五〇円

(カ) 高知相互銀行新居浜支店から昭和四二年五月一一日に久保長機械製作所宛送金した一〇万円の送金料二五〇円

なお、差引三四四四円については使途不明であるが、原告会社代表者工藤が費消したものと認める。

(三) さらに、右東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の定期積金二口は昭和四二年八月二三日に満期解約され、元金八〇〇万円とその利息六〇万円を得ていることは前述のとおりであるが、これについても、次のとおり、その使途が明らかであつて、原告主張の簿外経費の支払に充てられたことはない。

(1) 昭和四二年八月二五日に新居浜市農業協同組合の定期預金に二五〇万円入金

なお、右定期預金のうち小野大二郎名義(額面五〇万円)の定期預金は昭和四三年一月一〇日に解約されているが、右解約受取金をもつて、同日、同人名義の借入金三〇万円の返済に充て、残額二〇万円はさらに、同人名義の定期預金に預け入れている。

(2) 東邦相互銀行新居浜支店の借入金五六〇万円の返済資金なお、右借入金の内訳は次のとおりである。

(イ) 昭和四二年五月一八日付真鍋禎吉名義手形借入金一四〇万円

(ロ) 昭和四二年七月三日付真鍋禎吉名義手形借入金四二〇万円のうち一七〇万円

(ハ) 昭和四二年七月三日付工藤圓治名義の手形借入金二五〇万円

(3) 残額五〇万円は原告会社代表者工藤への賞与と認定したことは前記のとおりである。

(四) さらに、前項(2)の(イ)、(ロ)、(ハ)の借入金についても次のとおりその使途はすべて明らかである。

(1) 昭和四二年五月一八日付真鍋禎吉名義の手形借入金一四〇万円はその借入金に対する利息二万五四五二円、印紙税一九〇円を支払つた後の金額一三七万四三五八円を東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の普通預金に入金

(イ) 右預金からの昭和四二年五月一八日付引出額一〇〇万円は白石勝太郎から購入した新居浜市徳常町甲六六八番三の土地代金に充当

(ロ) 右預金からの昭和四二年五月二〇日付引出額三七万四〇〇〇円は混合機代金に充当

(2) 昭和四二年七月三日付真鍋禎吉名義手形借入金四二〇万円については、

(イ) 東邦相互銀行新居浜支店の当座預金に四〇四万円が振替入金され、新居浜市農業協同組合から取り立てられ、前記徳常町の土地購入残代金に充当

(ロ) 残額一六万円は右借入金の利息三万九三一二円、印紙税五一〇円、右土地の登録免許税三万二四九〇円、仲介手数料八万円に各充当

なお、差引七六八八円は使途不明であるが、原告会社代表者工藤が費消したものと認める。

八  被告の再反論に対する原告の再々反論

1  小切手入金明細について

原告のパン類販売は、ほとんど全部が小売であるが、店頭売以外の継続販売先は、新居浜市内のマルゼン食堂、別子大丸、住友クラブ及び泉寿亭の四ヶ所だけであり、被告主張のセーラー工芸社とは全然取引はない。同社は、原告とは無関係の西条市の黒猫パンと取引しており、被告において事実を誤認している。

2  旧蓄取崩分及び個人収入分について

(一) 旧蓄及び個人収入の状態

原告会社はウインドベーカリーとしての工藤の個人営業を、昭和二九年五月から有限会社組織に改めたものであるが、終戦後からこの時期までの我国製パン業界は発展の一路をたどつて極めて好況であり、原告方でも家庭消費が少ないのに反し利益が多く、当時工藤は三〇〇万ないし三五〇万円位の個人貯蓄を有していた。

しかして法人に改組した後においては、個人会社であるから、利益は会社の積立とすることなく、工藤夫婦に対する定時給与(役員報酬と従業員給料の双方を含む)と賞与、店舗借賃及び店主交際費等として支出せられ、会社の収支勘定は赤字にならない程度に処理されていた。

法人改組後における工藤個人の収入は、前記個人営業時代の預金の利息、原告会社から受け取る夫婦の役員及び従業員給与、賞与、会社に対する店舗の賃貸料、その他個人所有不動産の賃貸料等であるが、この頃には製パン業界の好況時代は終つて利益も漸減しており、反対に家庭の消費支出が漸増したため工藤個人の貯蓄はあまり伸びておらず、昭和四〇年頃の貯蓄額は五〇〇万ないし六〇〇万円位であり、その大部分は香川相互銀行及び愛媛相互銀行各新居浜支店における数口の定期預金として残り、その余はタンス貯金あるいは新戚知人への小口融資になつていた。

(二) 個人貯蓄のその後の変動状況

従前、原告方の主取引銀行は法人、個人とも香川相互銀行新居浜支店であつたが、その後高知相互銀行新居浜支店が原告店舗の近隣に開店したため同支店に切替えた。高知相互銀行同支店との取引開始は、工藤の個人取引分が昭和三八年四月から、原告法人分が昭和四二年一月からである。

しかして、前項の個人の旧蓄は、タンス貯金等の残存部分を除き、結果としてほとんど全部が、高知相互銀行同支店の個人口座(本件預金)に流入しているが、その入金の状態は、極めて複雑な経路を経ており、被告主張の如く単純なものではない。前記香川相互銀行、愛媛相互銀行の数口の定期預金は一口宛満期の都度、一旦手持ちを経て、新戚知人への貸金や法人の仕入れその他経費支出の立て替え、あるいは講金などに廻わされた後、再び工藤個人に回収されて高知相互へ入金されることもあり、又手持ちのままでまとめて入金(本件預金の昭和三九、四〇年頃の入金で、五〇万円以上一〇〇万円未満の分がそれである)することもあれば、商売が繁昌しているように見せるため故意に細分し、入金度数を増して入金することもあつた。なお、前記香川、愛媛両相互銀行の定期預金の一部は百十四銀行新居浜支店の定期預金に移り、昭和四一年末頃まで同行にあつたが、その一部は直接東邦相互銀行新居浜支店へ入金したが、他は本件預金へ入金した。

したがつて、本件預金は、工藤の個人営業時代の旧蓄とその利息並びに法人改組後の工藤夫婦の個人収入蓄積の一切を含むものであり、これから毎月流出した定額の積立金が東邦相互銀行新居浜支店の八〇〇万円の定期積金預金となつたのであつて、右いずれの預金も、被告の主張する如く原告会社の簿外売上預金ではない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  原告は、請求の趣旨2項及び5項において、本件各異議決定の取消を求めるが、本件各異議決定が別表一の各「異議決定」欄(4、10、16、22欄)記載のとおり、昭和四四年四月二三日になされたことは、当事者間に争いがなく、原告がその頃該決定の通知書を被告から受け取りこれを了知したとの被告主張事実は、原告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

ところで、国税通則法に基づく異議申立てに対する決定は、審査請求の対象とはなり得ない(昭和四五年法律第八号による改正前の同法七九条五項、七六条五項一号)から、本件各異議決定自体について行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を提起するには、該決定のあつたことを知つた日から三ヶ月以内にこれをしなければならない(同法一四条一項)(最高裁昭和五〇年(行ツ)第九三号同五一年五月六日第一小法廷判決・民集三〇巻四号五四一頁参照)ところ、原告が本訴を提起したのが昭和四四年一一月一七日であることは、当裁判所に顕著な事実である。

そうすると、本件各異議決定の取消を求める訴えは、いずれも出訴期間を徒過した不適法な訴えとして却下すべきである。

三  次に、原告は、請求の趣旨1項において、被告が原告に対してなした原告の本件係争事業年度の法人税の各更正及び重加算税賦課決定について、全部の取消を求めるが、昭和四〇年分については、別表一の4、6欄記載のとおり昭和四四年四月二三日付異議決定及び同年八月四日付審査裁決によりその一部が、昭和四一年分については、同表10欄記載のとおり、昭和四四年四月二三日付異議決定によりその一部が、それぞれ取り消され、昭和四二年分については、同表17欄記載のとおり、昭和四四年四月三〇日に再更正及びこれに伴う重加算税賦課決定処分がなされていることは、当事者間に争いがない。

そうすると、昭和四〇年分及び昭和四一年分の更正及び重加算税賦課決定のうち右一部取り消された前のものの取消を求める訴え並びに昭和四二年分の更正及び重加算税賦課決定の取消を求める訴えは、いずれも訴えの利益を欠く不適法な訴えとなるので、これを却下すべきである。

四  そこで、以下、本件処分のうち、昭和四〇年分及び昭和四一年分の法人税の更正及び重加算税賦課決定(但し、前記異議決定ないし審査裁決により一部取り消された後のもの)、昭和四二年分の法人税の再更正及びこれに伴う重加算税賦課決定並びに昭和四二年分の源泉所得税の各課税処分(以下、「本件課税処分」という。)の適否を検討する。

1  原告が確定申告段階において本件係争事業年度の所得金額として申告した損益計算は、別表二の一ないし三の各「原告金額」欄記載のとおりであり、被告が原告の右年度の所得金額として主張する損益計算は同表の各「被告金額」欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  原告は、本件係争事業年度における原告の所得金額は、右確定申告段階における申告のとおりであり、高知相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の普通預金(本件預金)を原告の簿外売上金の入金と認定し、これを前提としてなした被告の本件課税処分は、原告の本件係争事業年度における所得金額を誤つて過大に認定したもので取り消されるべきである旨主張するので、まず、本件預金の入金根拠について判断する。

<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和四三年九月五日頃、新居浜税務署係官が定期の法人税調査の目的で原告方に赴き、原告代表者工藤及び同税理顧問千葉芳一の立会いのもとに調査を実施したところ、原告会社では日々現金売上の原簿たるレジペーパーから大学ノートに売上金額を転記し、前日分までのレジペーパーを全部廃棄しており、しかも、大学ノートの記帳には五〇〇円を五〇円に改めるなど数個所にわたり改竄の跡が見られ、かつ、残存していた当日分のレジペーパーには入金の記入漏れを示す空間部分が散在することが判明した。そこで、係官は、原告会社において簿外売上金が存在する疑いを抱き、取引銀行等の調査を継続したところ、原告代表者工藤所有土地の賃料が小切手で支払われ、高知相互銀行真鍋禎吉名義の普通預金(本件預金)に入金されており、さらに本件預金の入出金状況を仔細に調査すると、本件預金は入出金回数、金額とも多く一般個人のものとは到底認め難いばかりか、原告会社のパン類代金の支払に充てられた小切手が本件預金に多数入金されていることが明らかになつた。

(二)  係官は、右銀行調査を踏まえて原告代表者工藤に本件預金の実体を確めたところ、同人は当初本件預金と自己との関係を否定したが、右小切手の入金状況調査結果を示されるに及んで、本件預金が原告の簿外売上金の入金されたものであることを認め、本件預金の出金状況について、後記東邦相互銀行新居浜支店の定期積金預金や製パン用混合機等簿外資産の購入に充てた旨自発的に申し出るとともに、自らの非を詫びて係官に詫状(<証拠略>)を提出した。

(三)  ところが、その後、同人は前言を翻し、係官に対し、本件預金はパチンコ遊戯あるいは小豆相場による儲け金の入金である旨申し立て、係官から仮に右個人所得であつても所得税の対象となる旨説明を受けると右申し立てもしなくなり、後日、異議申立段階になつて、本件預金は、個人営業時代の旧蓄の取崩分あるいは個人収入分の入金である旨主張し始めた。

(四)  本件預金の入金状況は、本件係争事業年度三年間を通じ、一ヶ月間に平均して五、六回(多い月で一〇回、少ない月でも三回)の割合で入金がなされ、一度の入金額は最高額が三〇万円で、二〇万円を越す入金は稀であり、四万円ないし一〇万円程度の入金が圧倒的に多くみられる。

また、入金時期は月末あるいは月初めに集中する傾向にあり、月別入金状況は別表三の二、三記載のとおりであり、これによると、パン、洋菓子の需要の多いクリスマスを控えた一二月に多額の入金がなされ、逆に夏場は比較的入金が減少していることが窮われる。

(五)  さらに、本件預金には、原告会社の顧客がパン、洋菓子等の商品代金の支払のために振出した小切手金が多数入金されており、その詳細は別表三の一の明細表のとおりである。

(六)  原告会社は、新居浜市内の繁華街に位置し、パン、洋菓子類の製造小売店としての性格上、その売上は日々現金によるものが大半を占めるものと推測されるところ、会社経営は代表者工藤と同人の妻トメ子の両名によつてなされるいわゆる同族会社で、日々の現金管理は記帳から出金まで同人らがすべて掌握していたものであるから、売上代金の一部を除外し簿外の売上金を作出してこれを隠蔽することは比較的容易にできる状況にあつたといえる。

(七)  本件預金は、原告代表者の妻トメ子の実父である真鍋禎吉名義(架空名義)を使用し、しかも、後記認定の本件預金から派生した定期預金もほとんどが架空の名義を用いて、税務調査による発覚を困難にさせている。

(八)  一方、本件預金の出金ないし使途状況をみるに、後記認定のとおり、架空名義の定期預金として別途蓄積したほか、原告のパン類製造販売に必要な機械、機具あるいは原材料たる粉ミルクの購入代金に充てられている。

(九)  なお、原告は、本件係争事業年度の所得金額について、確定申告の段階においては別表一の各「確定申告」欄(1、7、13欄)記載のとおり、昭和四〇年分はマイナス八万一九六〇円、昭和四一年分は同一一万四〇八二円、昭和四二年分は同六五三〇円の、各赤字所得を申告しており、前記税務調査を経た異議申立段階においてこれを訂正するに至つた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人工藤トメ子の証言及び原告代表者本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らしにわかに信用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の認定事実、ことに、本件預金の発覚経緯、発覚後の原告代表者の供述の変遷、本件預金の入金状況及びその使途並びに架空名義の使用等の事実を総合すれば、本件預金は原告が課税を免れる意図のもとに売上金の一部を簿外に作出させ、これを架空名義の預金としたものであると推認することができ、右推認を覆すには、原告において本件預金に個人取得の入金がある等特段の事情が存在することを主張、立証すべきものというべきである。

3  この点につき、原告は、本件預金には、本件係争年度以前の個人旧蓄を取り崩した分(以下、「旧蓄取崩分」という。)及び本件係争事業年度中に原告代表者工藤とその妻トメ子が原告法人から受領した給与、土地賃料等の個人収入分(以下、「個人収入分」という。)が入金されている旨主張するので、以下、検討する。

(一)  旧蓄取崩分について

原告は、本件預金に旧蓄取崩分として昭和四〇年分に二二〇万円、昭和四一年分に一九〇万円、昭和四二年分に二一六万円がそれぞれ入金されている旨主張するが、その具体的な入金経過については、何ら主張、立証しない。

もつとも、証人工藤トメ子の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告代表者工藤は、戦前の一時期にパン製造の職に就いて技術を習得し、終戦後、外地から引き揚げて昭和二六年から現住所地でパン類製造小売店を開業し、昭和二九年に原告会社を設立して現在に至つているところ、戦後の食生活の変化に伴いパン類の売上げは順調に伸び、個人営業時代の収益及び法人化後の役員給与等を合わせると同人において相当の個人財産を蓄積し得た事実が認められる。

しかしながら、<証拠略>によれば、原告代表者工藤は昭和三三年二月八日に新居浜市若水町一丁目甲五四〇番地の四の宅地八二・六四平方メートルを購入し、昭和三五年一〇月頃、同地上に鉄筋コンクリート造三階建の店舗兼居宅を新築しており、さらに同人は、昭和三四年六月三〇日に同市若水町一丁目甲五一七番地の一の宅地三三四・三八平方メートルを購入している事実が認められるのであつて、前認定の個人の蓄積金の大半はかかる不動産の購入ないし建築資金に充てられたものとみるのが相当で、戦後の貨幣価値の下落傾向を考慮すると、原告代表者工藤の個人営業時代からの旧蓄が、原告の主張の如く多額に残存していたとは到底認め難い。

なお、原告は、旧蓄の一部が定期預金され、これを解約して得た分が本件預金に入金されている旨主張し、<証拠略>によれば、香川相互銀行新居浜支店及び愛媛相互銀行新居浜支店に真鍋行雄、真鍋アキラ名義等架空名義の定期預金が存在し、本件係争事業年度中に、合計約四〇〇万円が解約出金されている事実が認められる。

しかしながら、右架空名義の定期預金がすべて原告主張の旧蓄であるとの確証はなく、仮に旧蓄分が含まれているとしても、利息その他で預金者に有利な定期預金を解約し、あえて普通預金の本件預金に入金しなければならない理由も見出し難く(後記認定のとおり、原告は本件預金から東邦相互銀行新居浜支店へ毎月二〇万円の定期預金をしている。)、前述の本件預金の入金状況に鑑みても右定期預金の解約分が本件預金に入金されたとは解し難い。

むしろ、<証拠略>によれば、前記定期預金のうち香川相互銀行新居浜支店の真鍋行雄名義等二口(合計一〇〇万円)の定期預金については、架空名義あるいは預け入れ銀行を替えながら定期預金のまま存続し、最終的に東邦相互銀行新居浜支店において借入金の返済に充当されている事実が認められる。

原告は、右定期預金の本件預金への入金経緯について、工藤らにおいて取引銀行あるいは世間に対する見栄から商売が繁昌しているように装うため、右定期預金を取り崩して一旦いわゆるタンス預金とし、それを故意に細分して本件預金に入金した旨主張し、証人工藤トメ子の証言及び原告代表者本人尋問の結果には右主張に副う部分があるけれども、右証言ないし供述部分は不自然、不合理というほかなく、たやすく信用することができない。

そうすると、旧蓄分を本件預金に入金したとの原告の主張は、採用することができない。

(二)  個人収入分について

原告は、本件預金に個人収入分として昭和四〇年分に七二万六〇〇〇円、昭和四一年分に八七万円、昭和四二年分に一〇三万八〇〇〇円がそれぞれ入金されている旨主張するが、その具体的な入金経過については、何ら主張、立証しない。

ところで、<証拠略>によれば、原告は、本件係争事業年度の各確定申告において代表者工藤及び同人の妻トメ子の個人収入分として、昭和四〇年度に六七万〇五〇〇円、昭和四一年度に八七万二〇〇〇円、昭和四二年度に一〇三万八〇〇〇円の年間収入があつた旨申告している事実が認められ、右申告にかかる個人収入があつたことは、被告において、これを争わないところである。

しかしながら、<証拠略>によれば、当時、原告代表者工藤の家族は、夫婦と長男、長女の計四名で、長男は昭和四〇年四月から大阪市内の私立大学に、長女は昭和四一年四月から新居浜市内の公立高校にそれぞれ在学中で相当の生活費や学費が見込まれ、右個人収入を本件預金に入金する余裕はさしてなかつたものと認められ、まして、右申告にかかる個人収入分をすべて本件預金に入金したと解さざるを得ない原告の主張は、到底、採用の限りではない。

そうすると原告の前記主張も採用できない。

4  そうだとすれば、被告において本件預金を原告の簿外売上金が入金されたものと認定したことは相当としてこれを是認すべく、以下、これを前提に本件各係争事業年度毎の課税処分の適否を判断する。

(一)  昭和四〇年分について

別表二の一の番号1「売上金額」、同4「利息」、同8「原材料」の各欄記載の差額金額を除き、同表記載の他の損益科目の金額については、当事者間に争いがない。

(1) 売上金額の差額三四二万九五七五円について

<証拠略>によれば、本件預金に、本事業年度中に合計三四三万四二四〇円の入金がなされており、このうち昭和四〇年八月一八日入金の二一六〇円と昭和四一年二月一四日入金の二五〇五円の合計四六六五円は同預金の利息金であることが認められる。

ところで、本件預金が原告の簿外売上金の入金と認定できること前叙のとおりであるから右入金総額から利息金を控除した三四二万九五七五円は原告の簿外売上金として原告の申告額に加算されるべきである。

(2) 利息の差額四六六五円について

前項認定の本件預金の利息金四六六五円も、前同様、原告の利益金に計上されるべきである。

(3) 原材料の差額二〇万円について

<証拠略>によれば、原告は本事業年度中の昭和四〇年一二月三〇日に原材料の粉ミルクを購入し、代金二〇万円を支払つている事実が認められるので、原告の申告額から右代金二〇万円を損失金として控除すべきである。

そうすると、原告の昭和四〇年分の所得金額は、別表二の一の「被告金額」欄番号28の当期利益金三一五万二二八〇円と認められるところ、右金額の範囲内で(九〇万三四四九円を控除して)なされた本事業年度の所得金額を二二四万八八二一円とする本件課税処分及びこれに伴う賦課決定処分は適法である。

(二)  昭和四一年分について

別表二の二の番号1「売上金額」、同4「利息」、同22「租税公課」の各欄記載の差額金額を除き、同表記載の他の損益科目の金額については、当事者間に争いがない。

(1) 売上金額の差額二八二万二六二一円について

<証拠略>によれば、本件預金に、本事業年度中に合計二七七万一二九三円の入金がなされており、このうち昭和四一年八月一三日入金の二四三三円と昭和四二年二月一三日の入金の合計三六七二円は同預金の利息金であることが認められる。

したがつて、前同様、右入金総額から利息金を控除した二七六万七六二一円は原告の簿外売上金として原告の申告額に加算されるべきである。

ところで、<証拠略>によれば、原告の本件預金から東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の二口の定期積金預金に昭和三九年四月二三日から昭和四二年八月二三日の満期解約日まで毎月二〇万円を継続して預金している事実が認められ、入金経緯からして右定期預金は本件預金の変形したもので原告の簿外売上金の入金と認定して差し支えない。

そして、<証拠略>によれば、右定期預金に、本事業年度中に、二四〇万円の入金がなされている。

また、<証拠略>によれば、原告は本事業年度中に簿外資産として電気釜(三五万円)及び単車一台(五万五〇〇〇円)を購入した事実が認められる。

他方、<証拠略>によれば、本事業年度中に本件預金から総額二七五万円の出金があつたと認められ、右出金額から前記定期預金入金分を差し引いた残金が、右簿外資産の購入に充てられたとしても、なお五万五〇〇〇円の資金源が不明である。

(275万-240万)-(35万+5万5000)=△5万5000(円)

そうすると、右資金源不明の五万五〇〇〇円は、前記原告の簿外売上金作出の経緯に照らせば、他に特段の事情が認められない限り、本件預金に入金されなかつた簿外売上金が別途存在し、これにより賄われたものと認定して差し支えなく、右特段の事情を認めるに足る証拠はない。

よつて、本件預金に入金された前記簿外売上金二七六万七六二一円と本件預金に入金されなかつた右簿外売上金五万五〇〇〇円の合計二八二万二六二一円を本事業年度の原告の簿外売上金として、原告の申告額に加算すべきである。

(2) 利息の差額三六七二円について

前項認定の本件預金の利息金三六七二円も、前同様、原告の利益金に計上されるべきである。

(3) 租税公課の差額一五万七三二〇円

原告の昭和四〇年分の所得金額が二二四万八八三一円であること前認定のとおりであり、これに対する事業税一五万七三二〇円を本事業年度の損金として控除すべきことは被告の自認するところである。

そうすると、原告の昭和四一年分の所得金額は、別表二の二の「被告金額」欄番号28の当期利益金二五五万四八九一円と認められるところ、右金額の範囲内で(八万五三二〇円を控除して)なされた本事業年度の所得金額を二四六万九五七一円とする本件課税処分及びこれに伴う賦課決定処分は適法である。

(三)  昭和四二年分について

別表二の三の番号1「売上金額」、同3「期末たな卸」、同4「利息」、同8「原材料」、同22「租税公課」、同24「利息割引料」の各欄記載の差額金額を除き、同表記載の他の損益科目の金額については、当事者間に争いがない。

(1) 売上金額の差額三三三万一二一三円について

<証拠略>によれば本件預金に、本事業年度中に合計三五三万六〇九六円の入金がなされており、このうち昭和四二年八月一四日の入金二二四二円と昭和四三年二月一二日入金の一八七九円の合計四一二一円は同預金の利息金、昭和四二年一二月二日入金の二〇万〇七六二円は高知相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の通知預金の解約金であることが認められる。

したがつて、右入金総額から利息金及び通知預金の解約金を控除した三三一万一二一三円が、原告の簿外売上金と認められるので原告の申告額に加算されるべきである。

(2) 期末たな卸の差額一五万円について

<証拠略>によれば、原告は本事業年度中に、原材料の粉ミルクを簿外で購入し、本事業年度末の時点で一五袋(一五万円相当)を所有していた事実が認められるので、右金額を原告の期末たな卸の申告額に加算すべきである。

(3) 利息の差額六一万〇五〇六円について

原告は前認定のとおり本件預金の利息金四一二一円を得ている。

ところで、東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の定期積金預金が、本件預金と同様、原告の簿外売上金と認められること前述のとおりであるが、右定期積金預金が昭和四二年八月二三日に満期解約され、原告は同日元金八〇〇万円と利息六〇万円を受領していることは、当事者間に争いがない。

さらに、<証拠略>によれば、原告は、右満期解約された定期積金預金の元金八〇〇万円のうちから五〇万円を昭和四二年八月二五日に新居浜市農業協同組合に小野大二郎名義で定期預金し、同預金が昭和四三年一月一〇日に中途解約され、原告は同日利息六三八五円を受領していることが認められる。

そうすると、右利息金三口合計六一万〇五〇六円は、その元金がいずれも原告の簿外売上金と認められるから、本事業年度の原告の利益金に計上されるべきである。

(4) 原材料の差額二〇万円について

<証拠略>によれば、原告は本事業年度の昭和四二年八月二五日に原材料の粉ミルクを簿外で購入し、代金二〇万円を支払つている事実が認められるので、原告の申告額から右代金二〇万円を損失金として控除すべきである。

(5) 租税公課の差額一七万七二一〇円について

原告の昭和四一年分の所得金額が二四六万九五七一円であること前認定のとおりであり、これに対する事業税一七万七二一〇円を本事業年度の損金として控除すべきことは被告の自認するところである。

(6) 利息割引料の差額二二万八〇五八円について

<証拠略>によれば、原告は、本事業年度に東邦相互銀行新居浜支店から八一〇万円、新居浜市農業協同組合から二五〇万円を借り入れ、その借入利息金として二二万八〇五八円を支払つている事実が認められるので、右利息金二二万八〇五八円は本事業年度の損金として控除されるべきである。

そうすると、原告の昭和四二年分の所得金額は、別表二の三の「被告金額」欄番号28の当期利益金三四七万九九二一円と認められるところ、右金額の範囲内で(五七万九一五五円を控除して)なされた本事業年度の所得金額を二九〇万〇七六六円とする本件課税処分及びこれに伴う賦課決定処分は適法である。

(四)  昭和四二年分源泉所得税について

原告が東邦相互銀行新居浜支店の真鍋禎吉名義の定期積金預金を昭和四二年八月二三日に満期解約して元利金八六〇万円を受け取り、そのうち五六〇万円を同銀行からの借入金返済に充て、二五〇万円を新居浜市農業協同組合に定期預金した事実は、当事者間に争いがない。

右東邦相互銀行新居浜支店真鍋禎吉名義の定期積金預金は、前記認定のとおり、本件預金から毎月二〇万円ずつ入金されたものであるから原告の簿外資産と認められるところ、原告が取得した同預金の元利金八六〇万円のうち、右当事者間に争いのない八一〇万円を除く残金五〇万円については、<証拠略>によると、その具体的使途が不明に終つたことが認められる。

ところで、原告会社は、前述のとおり代表者工藤の同族会社で、同人においてすべての経理を掌握していたものであるから、右簿外資産たる定期積金預金の使途不明金五〇万円については、首肯するに足る合理的な使途の説明がない限り、これを原告代表者工藤に対する臨時的給与、すなわち賞与として支給されたと推認して差し支えないというべきである。

しかるところ、原告は、右五〇万円は原告代表者の自宅に保留した旨主張し原告代表者本人尋問の結果にはこれに副う部分があるが、かかる弁明をもつて使途不明金の合理的説明とは到底いいえない。

そうすると、右五〇万円を原告代表者工藤に対する賞与支給金と認定してなした昭和四二年分の源泉所得税についての本件課税処分は適法である。

五  原告の反論について

1  所得金額の算定方法について

原告は、パン、洋菓子類の製造小売業者の売上げ高は小麦粉、バター等の原材料の消費量によつて決定されたから、その所得金額は原材料の仕入量を基礎として算定すべきであるのに、被告が本件預金を基礎として原告の所得金額を算定したのは不当である旨主張する。

もとより、原材料の仕入量を基礎とした所得金額の算定が合理的課税方法の一つであることは所論のとおりであるけれども、本件においては、前記認定のとおり、原告の売上金額の記帳に不正が窺われ、これを端緒に架空名義の本件預金が発覚され、諸般の事情から簿外売上金の入金と認定されたものであつて、かかる事情に鑑みれば、被告が本件預金の入金額を基礎に原告の所得金額を算定したのは、合理的根拠に基づく課税方法として是認されるべきである。

よつて、原告の主張は、これを採用しない。

2  利益率について

原告は、原告会社は地方中都市の零細企業にすぎず、パン類販売業者の全国平均利益率は、二四・五%であるのに、原告がこれをはるかに上廻る利益をあげたとしてなした被告の本件課税処分は不当である旨主張する。

<証拠略>及び原告代表者本人尋問の結果によれば、昭和四三年度のパン製造業者の全国平均販売売上高対総利益率は二四・五%であることが認められ、本係争事業年度における原告会社の同利益率を前認定の所得金額を基礎に算定すると次表のとおりとなる(原告は、当期利益金を被告主張の別表二の一ないし三の番号28欄記載の金額を基礎に利益率を算出し、法外な利益率となる旨主張するものと解されるところ、本件課税処分においては、被告は右当期利益から一定の金額を控除し原告の所得金額としたこと前認定のとおりであるから、本件課税処分の当否を検討するうえで、原告の利益率を算出するには、右所得金額を基礎とすべきである。)。

事業年度

売上金額(円)

所得(利益)金額(円)

利益率(%)

昭和四〇年分

八、三〇六、六四二

二、二四八、八三一

二七・〇七

昭和四一年分

八、三六九、八五三

二、四六九、五七一

二九・五〇

昭和四二年分

九、七一八、六四〇

二、九〇〇、七六六

二九・八四

そうすると、本件係争事業年度の認定利益率は、原告主張の二四・五%を、いずれもやや上廻ることが明らかである。

しかしながら、<証拠略>によれば、原告主張の利益率は、パン製造業者のものであり、原告会社はパン、洋菓子類の製造小売業者であるから、右利益率をそのまま適用するのは適切でなく、昭和四三年度の菓子製造業者の全国平均利率率は三四・〇%、菓子製造小売業者のそれは四七・五%であり、これから推すとパン、洋菓子類製造販売業者の利益率は、パン製造業者のそれよりやや上廻るものとみられること、原告会社は代表者工藤夫妻以外に従業員三名位の小規模な店舗ではあるが、新居浜市の通称登道と呼ばれる繁華街に位置し、ウインドベーカリーとしての立地条件に恵まれているうえ、原告会社のパン、洋菓子類は比較的高級品が多く、家族経営のため人件費も低廉であつて、これらの事情からして、売上高に対する利益率は比較的高く見込まれること、以上の各事実が認められ、右認定の事実に照らせば、本件課税所得金額を基礎に算定した前記利益率をもつて不当、不合理とはいい難く、よつて、原告の利益率に関する主張は、これを採用しない。

3  簿外経費の控除について

原告は、仮に被告主張の簿外売上があつたとした場合、これに見合う簿外経費の控除がなされるべきであるのに、右控除がなされていない本件課税処分は不当である旨主張する。

そこで按ずるに、課税庁が税務調査の過程で簿外売上金の入金を疑わせる預金を発見し、その一定額を簿外売上金と認定して課税処分に及ぶ場合、簿外売上金を形成するに要する経費を捨象し、簿外売上金のみを利益に計上することは一般的に許されないといわなければならず、簿外売上金を既申告の簿内売上金に加算した当期売上金(高)が既申告の簿内経費と著しく均衡を失する場合、換言すれば、当期利益率が不当に高くなる場合は、一定額の簿外経費を要したものと看做して、課税庁はこれを控除すべきである。

しかし、簿外経費の個別的、具体的な存在立証は課税庁においてこれをなし得るところではなく、また、簿外売上金がすべて簿外預金に入金されるとは限らず、簿外預金に入金前の簿外売上金から直接簿外経費が賄われ、その残金が、いわば純利益金として簿外預金に入金されることもあり得ることに鑑みると、課税庁においては、認定した簿外売上金を当期売上高に加算計上する場合、これによつて、当期利益率が著しく均衡を失するときにはじめて一定額の簿外経費を看做し控除すれば足りるというべきで、これを超える簿外経費の支出は、被課税者において個別的、具体的に主張、立証すべきであると解される。

もとより、右の範囲において被課税者に簿外経費の主張、立証責任を負わせることは、そもそも簿外売上金の不存在を主張して争う被課税者に対し背理を強いるものではあるが、簿外売上金の認定を受けた以上、これもまたやむをえないというべきである。

ところで、本件においては、前認定のとおり、被告は、本件預金を原告の簿外売上金と認定し、本件係争事業年度の売上高に加算計上したが、同時に、原告の簿外資産購入の申出に基づき調査し、昭和四〇年分、昭和四二年分に原材料の粉ミルク代各二〇万円を簿外経費として控除したほか、本件各係争事業年度において認定し得る当期利益金から、さらに一定金額をそれぞれ控除したうえ課税対象たる所得金額を算定している。

そして、本件課税処分が、利益率の側面からみて不当といえないことは前述のとおりであるから、原告においてこれを超える簿外経費の主張、立証をしない限り、さらに簿外経費の控除をなす必要はないというべきところ、原告は、簿外経費として特殊ルートによる原料の仕入れ、交際費その他の諸雑費を要すると主張するのみで、その具体的支出状況については何ら立証しない。

そうだとすれば、原告の簿外経費控除の主張は、これも採用の限りではない。

六  なお、被告は、本件課税処分における認定所得金額の正当性を補完する趣旨から、推計計算による算定根拠を主張し、原告はこれに反論するが、本件課税処分は、いわゆる推計課税に基づく処分ではなく、本件課税処分が適法であることは、すでに認定判断したとおりであるから、推計計算の当否についての判断には立ち入らない。

七  結論

以上の次第であるから、原告の本件訴えのうち、本件各異議決定の取消を求める部分、昭和四〇年分及び昭和四一年分の更正及び重加算税賦課決定のうち異議決定ないし審査裁決により一部取り消された前のものの取消を求める部分並びに昭和四二年分の更正及び重加算税賦課決定の取消を求める部分は、いずれも不適法としてこれを却下し、その余の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上明雄 佐藤武彦 田岡敬造)

別表一、二の一ないし三、三の一ないし三 <略>

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